第44回宮崎県医学検査学会 抄録集
サルモネラ菌による尿路感染症の1症例
○山下景子1)斎藤由紀子1)西田智子1)守屋喜代1)正覚明美1) 池井義彦2)高橋尚也2) 医療法人養気会池井病院 検査部1)同 泌尿器科2)
[はじめに] サルモネラ菌による尿路感染症は胃腸炎が主体であり、病巣感染をするものは少なく、特に尿からの検出については、あまり知られていない。また、病巣感染を示唆された症例によると以前に胃腸炎を経験された例が殆どである。今回、我々はSalmonella.corvallisによる尿路感染症を経験したので報告する。
患者は70歳男性、他院にてヘルニア術後に左腎の障害を指摘されていたが、腎は片方で機能を発揮するとのことで放置されていた。1年ほど前から頻尿、排尿時痛を自覚され、精査目的にて、平成17年6月24日に当院泌尿器科受診された。前立腺は触診上、圧痛もなく、PSA1.6ng/mlで正常であった。KUB及びIVPで左腎盂内に珊瑚状結石が形成されていた。初診時より膿尿・細胞変性炎症像あり尿中白血球無数検出されていた。
初診時より膿尿著明で、白血球無数見られたため6月30日に培養検査提出された。白糖加SSS培地・BTB培地で好気培養を行い白糖加SSS培地・GAM培地で嫌気培養を行なった。一昼夜後、好気培養には増菌認めず、嫌気培養にてグラム陰性桿菌の発育を認めた。白糖加SSS培地には一部硫化水素を伴う無色透明のコロニーを多数認めSalmonella菌と同定されたが、尿からの検出は経験がなかったので感受性施行後、菌種仮報告にて再提出をお願いした。2週間後の再検査においても同様の菌を確認したので、菌株の同定 を検査センターに依頼した。結果は2回とも Salmonella.colvallisでO:8 群 H1相:z4,z23 H2相:なしであった。
初診時より抗生剤ファロムが投与されていた が膿尿改善が見られなかった。インビボ上指示された殆んどの抗生剤に感受性があったので7月14日よりミノマイシン・フロモックス・クラビットと感受性の認められる抗生剤の投与が随時おこなわれた。内服中は一時的に排尿痛が軽減するものの、膿尿の改善なくSalmonlla菌の消失もないため、9月5日に宮崎大学へ紹介、原因と思われる珊瑚状結石粉砕のため入院された。粉砕時、発熱・一時的に敗血症を思わせる状態にあったと聞いている。術後は尿中細菌の検出が認められていないと報告を受けているが、抗生剤の長期投与による改善なのか、初診時より嫌気培養でしか増菌が見られなかったため、菌検出が困難であったのか確認していない。
[まとめと考察]
本症例の発生機序は、はっきりしていない。食中毒の既往もなくSalmonella菌と珊瑚状結石の因果関係は明らかでないが、結石粉砕時に敗血症様症状に陥ったことから、結石に細菌が付着していたと思われる。結石に細菌が付着し、細菌が産生するglycocalyxの膜を作りその膜(biofilm)は抗菌薬が透過できない。invivo上では感受性のある抗生剤が随時投与されても膿尿・菌消失が見られなかった事が伺える。何らかの原因で尿路感染症を起こし珊瑚状結石が形成され、その後サルモネラ菌(食中毒は起こさなかったが)が血流を介し腎盂内の珊瑚状結石に付着したため、膿尿を伴う尿路感染症を起こしたと思われる。尿培養においては通常好気培養で充分であるが、当院では過去にも、Bacteroidesによる尿路感染症を経験していることから塗抹検査菌陰性時は嫌気培養を必ず行なうことにしている。今回の症例も沈渣にて白血球無数で細菌は確認できなかった。改めて嫌気培養の大切さを痛感した。Salmonella.colvallisによる尿路感染症の報告は本邦において、初めてではないかと思います。今回の症例についてご指導いただきました、当院泌尿器科、高橋先生ならびに御協力いただいた宮崎大学病院泌尿器科の濱砂先生に感謝いたします。