演題No.8
○津曲洋明1) 横尾明子2)大嶋雅代2)谷口洋子2) 木佐貫 篤1)
県立日南病院 臨床検査科1)・看護科手術室2)
【はじめに】
これまで、当院における手術時の手指の消毒は滅菌ブラシを用いるブラッシング法を採用していたが、手術室スタッフより「毎回のブラッシング法は手指の皮膚を傷つけあかぎれ状態になり、医療従事者としては適切な方法でないのではないか」との意見があった。また、手術時手指の消毒方法について文献調査をなったところ、現在は擦りこみ法や擦りこみ法+アルコール製剤塗布がCDCのガイドラインでも推奨されていることが判明した。しかし、長年行ってきた方法の変更のためには、意識改革のための検証がないとなかなか変更できない現実があった。このため、当院の院内感染症対策委員会の承認を得て、手術時手指の消毒方法の改善と手術室スタッフの教育を目的に、今回細菌学的手法を用いて共同研究で検証し、改善したので報告する。
【材料及び方法】
今回検討した手指の消毒方法は、これまで行っていたブラッシング法に擦りこみ法及び擦りこみ法+アルコール製剤塗布の2方法を加えた3方法について手術室の看護師5名を被験者として実施した。実験期間は平成16年11月10日から18日までの間で、実験方法はグローブジュース法に準処した。すなわち、市販の非病原性株B.subtillis株(栄研)の18時間培養菌を用いて事前に106CFU/ml菌浮遊液を1リットル調整し、その菌液に被験者の手指を浸漬し消毒前の被験者の手指付着菌数のベースラインを106レベルに設定した。その後、3方法で手指の消毒を行い、手術用手袋着用後PBS(pH7.2)40mlを入れて1分間もみ洗い出した洗浄液を材料とし、標準寒天平板法を用いて手洗い前と手洗い後の生菌数を比較する方法で行った。
また、この際、使用した消毒薬は現在当院で手術時の手洗いに使用しているヒビスクラブ(グルコン酸クロルヘキシジン)を用い、アルコール製剤は速乾性擦式消毒薬のヒビスコール(0.2%グルコン酸クロルヘキシジン/80%エタノール)を用いた。使用手袋は手術用センシタッチ・プロ・ノウパウダーを用いた。
【結果】
被験者の手洗い前の手指付着菌数に個人差がみられたが、5人の被検者の3方法の手洗い後の細菌数は調整菌液が106レベルであったものが、擦りこみ法の2名の被験者を除きすべて検出感度の40CFU/ml未満と105レベル以上の減少がみられた。
また、擦りこみ法の2名の被験者は200CFU/mlと460CFU/mlの生菌数が検出された。
【考察】
今回の3方法による手指消毒法はいずれも細菌学的に有効な消毒法であることが確認された。
しかし擦りこみ法では2名の被験者に102レベルの生菌数が残存していたことを考慮すると、擦りこみ法+アルコール製剤塗布がより確実な方法であると思われた。
また、擦りこみ法2名の被験者のうち1名は実験時手荒れがあったこととCDCのガイドラインにある「ブラシによって手の皮膚を傷つけると菌の定着を促し、一端傷の中に菌が入り込むとどんな消毒剤・殺菌剤を使っても傷が完治するまでは取り除けない」より、手荒れが原因である可能性が示唆された。本実験後、当院では手術時の手指の消毒はアルコール過敏症のスタッフはアルコール含まない代用消毒薬が無いためこれまでのブラシング法で行い、大半のスタッフは擦りこみ法+アルコール製剤塗布に変更して業務を行い、手洗いの方法を改善することができた。また、院内スタッフの初心者等を中心に手洗いの仕方について研修会等も開催され、医療従事者の正しい手洗いの仕方を推進している。
|